Mag-log in「真紅に輝く君に僕は魅入っているのさ……」
嘘だろ?
ネルヴァの話を鵜呑みにすると、俺は武運の女神が魅入るほど赤い輝きを帯びているという。「ルカ、よろしく。僕は新しい使徒を歓迎するよ」
武運の女神は怒り狂っているかと思えば、俺をすんなりと受け入れている。
「俺で構わないのか?」
「君は少し女神ウケが良すぎる。悠久の女神ニルスがあそこまで固執するのは初めて見たよ。愚者の女神や美の女神も同じ。特にニルスはシエラが加護を与えてからも、ちょっかいを出していたからね。僕は君が浮気しないかハラハラしているよ。他の色に染まらないでね? ルカ、僕は君を愛しているから」
何だかよく分からんが、俺は女神様から告白されていた。
現実の女性には見向きもされないってのに、女神様にばかりモテてどうすんだ?「そういや、美の女神様も俺を希望していたんだっけ?」
「そうだね。美の女神イリアの色は空。それは悲運と叡智が混ざった色。叡智の女神マルシェが選ぼうとしていたのだから疑いはないけど、君は叡智の素養も高かったんだね」
「色は知らないけど、美の女神様の使徒はモテモテだと聞いたぞ? 初見で美の女神様は俺を指名したんだろ? 全然、モテないのはなぜだ?」
未だかつて女性と付き合ったことがない。母親似の俺は割と整った顔だと思うのだけど。
「イリアは君を女の子にするつもりだったみたいだ。まあでも、性別関係なく現状の君はモテるはずだよ。モテないというのなら、原因はその深い青にある。ルカは過度な悲運にあるからね。モテるべき女性に出会えない運命なのさ」
乾いた声で笑うネルヴァ。
殴っていい? 笑い事じゃないっての。「黙れよ。俺にとっては切実な問題だっての」
「ああ、ごめんね? 君がモテると僕は妬いちゃいそうだからさ。青のおかげで平静を保っていられる」
「ホントかよ……。まあでも、出会うべき女性に出会えば、モテるってことだな?」
「そういうこと。とにかく君は異性に気を付けることだ。特に女神たち。まさかシエラが使徒に入れ込むなんて考えられないことだ。今や誰もがルカを気にしている。君の輝きは僕たちを惹き付けるから」
一貫して女神ウケがいいとネルヴァは口にする。
まあでも、今の話で気にするのはそこじゃないな。「俺は今でもシエラの使徒なのか?」
「おや? 何でも知っているのかと思えば聞いてないの? ステータスを見てみるといいよ。あと迂闊にディヴィニタス・アルマと口にしてはいけない。先ほど君が口にしたことで、君はまた一人、新たな運命を背負ってしまった」
え? この会話の最中でも有効なのか?
そういや、アルクの運命を奪ったのもシエラとの会話中だったっけ。「他者の運命を背負うと世界を動かしてしまう。新しい運命を得た君の過去は書き換えられている。このまま目覚めてしまえば、君はルカ・アルフィスではなくなってしまうんだ」
「どういうことだよ?」
「分からないかい? 他者の運命を背負ったんだ。生誕から現状まで。奪った者の過去が君に流れ込んでいる。つまり奪われた彼自身に君はなっているんだ。親も兄弟も異なる。一方で奪われた彼は全ての過去を失った。君が彼の立場に入り込んだ格好だよ」
マジで? それって俺はもう子爵家の長男じゃないってことかよ?
「どうしたらいい? 俺は父上や母上、アルクを失いたくない」
「僕がフォローするよ。今は時が止まった状態だからね。動き出す前に世界の記憶をサルベージする。でも膨大な神力を必要とするから、全員の記憶は復旧できないからね? 奪った彼に近い存在や、君の親族までだ。世界に影響を与えない人たちの記憶まで復旧させる神力はないから」
なんて恐ろしい魔法なんだよ。
他者の運命を奪うと俺の人生はその人の親族として書き換えられてしまうのか。「アルクの運命を背負ったときは家族だから問題なかったのか?」
「いいや、あれはシエラが上手くやったといっただろ? 彼女の固有スキルだからね。加護だけを狙い撃っていた。シエラの補助があってこそ現状があるんだ……」
なるほどな。ゲームの俺がリィナに使ったときもシエラの補助があったってことか。
リィナの聖女というジョブは本編でそのままだし、俺は悲運な彼女の未来だけを背負ってしまったらしい。
「てか、俺は誰の運命を背負ったんだ? ここには誰もいなかったはずだけど?」
「ステータスと念じれば良い。使徒の特権さ。何を得たのか分かるはずだ」
本当に理解できなかったけれど、俺は心の中にステータスと念じた。
かといって、半信半疑だ。ゲームでもないというのに、ステータス表示ができるなんて考えられない。この人生で一度だって見たことないっての。
ところが、俺の眼前にステータスが開く。現状が一目で分かるようなものが。
【名前】ルカ・シエラ・アルフィス 【年齢】15歳 【ジョブ】神職者(司教級) 【加護】シエラの加護・ネルヴァの加護 【レベル】13マジかよ……。
俺は愕然としていた。確かにネルヴァが話したようにジョブが神職者となっている。ここで気になるのは誰の運命を奪ったのか。しかし、難しい話ではない。田舎町に派遣された司教など一人しかいないのだ。
恐らくディヴィニタス・アルマの効果範囲は広い。聖堂近くにいた司教様のジョブを奪ってしまったに違いない。
「勇者じゃなくなってるけど?」
「そこは任意で変更できる。加護についても同じだ。君は神職者であり、勇者であり、代行者でもある。まあ旅に出るのなら、神職者は良いジョブだよ。勇者だとバレるとややこしい事もあるからね」
「司教様はどうなる……?」
「世界情報のサルベージによって元の神職者へ戻っている。君の旅に役立つと思って、神職者のジョブだけを残した格好さ」
ネルヴァは割と話せる女神のよう。シエラをして善だと言わしめるだけはあるな。
「じゃあ、強さの状態は分からないのか? レベルは魔物狩りで上がってる?」
「概ねジョブとレベルで強さが決まる。努力により度合いは変わるけどね。あと君はステータスを誤解しているようだけど、僕たち女神が輝きによって強さを計るように、本人にも詳細は分からないのさ」
なるほど、了解した。
必死で剣を振り続けても、ゲームとは違って上がったかどうかなんて分からないのか。「俺はこのあと王都に向かって、隣国イステリア皇国へと行くつもりだが、それで構わないか? できればリィナには会いたくないんだけど……」
せっかくなので俺は今後の予定を伝えておくことに。シエラとは違って適切な助言がもらえるのではないかと。
「まあ、リィナには会わない方がいいね。だけど、難しいかもしれない。彼女は類い希な幸運の持ち主だから。加えて、君は不幸だからね……」
行き先よりもリィナについて返答があった。
てか不幸言うな。悲運なだけだっての。
とりあえず、俺は彼女を避けようとしているのだが、ネルヴァ曰く難しいという。「幸運の持ち主……?」
「リィナは幸運の女神に魅入られている。不幸な境遇を相殺して余りある幸運。あの子が君を必要としたのなら、君の前に彼女は現れるだろう」
マジかよ。ゲームでの話だけど、俺はリィナが好きだったんだ。でも、彼女はルカが好きだと言って……、あれ? ルカは俺か……。
「リィナは俺にあの呪文の使用を迫るだろうか?」
「どうだろうね? 幸運の女神セラはそこまで強引じゃない。他の手段を考えていると思う。たとえば叡智の女神マルシェの使徒と会うとかね」
「マルシェ様の使徒に会うのか。じゃあ、リィナと俺が出会うはずもないな。俺は王都クリステラへ行ったあと、イステリア皇国へと行くのだし」
とりあえずは安心だ。リィナに出会って頼まれてしまえば、俺は断れない気がする。
天真爛漫な笑顔を病が曇らせるというのなら、俺はこの命を代償としてしまうかもしれない。安堵する俺にネルヴァが続けた。
「紅蓮の光を放つ僕の愛しきルカ。もう僕は君にゾッコンだよ……」
どうしてか知らんが、女の子にモテるんじゃなく、なぜか女神がデレた。
また愛を語らうだけでなく、ネルヴァは不安になるような話を告げる。「あと叡智の女神マルシェの使徒は王都クリステラにいるよ」
うん、そこは俺の目的地じゃん。それって確定事項じゃん?
リィナもまた王都を目指しているのなら、悲運が幸運に勝てるはずもねぇよ。やっぱ、悲運は不幸なのかもな……。
一週間が過ぎていた。 相変わらず、授業は基礎ばかりであって俺は退屈している。 ゲームで何度も繰り返した経験があるものだから、新しい発見なんて一つとしてなかったんだ。「ルカ様の魔法威力は凄いですね?」 移動の道すがら、フィオナが俺に言った。 次の授業はどうしてか予定が変更となり、校庭に集まるように聞いている。魔法科である俺たちは基本的に魔道殿から出ることなどなかったというのに。「いやいや、俺はジョブに依存してるだけだし。フィオナの素質が開花したら、足下にも及ばないよ」「じゃあ、わたくしがルカ様を超えましたらご褒美をいただきとうございます」 何だかよく分からんな。皇女殿下であるフィオナが欲しがるものって何だ?「ご褒美?」「ええ、ご褒美がないと頑張れませんの。そのときには是非とも……」 満面の笑みを浮かべるフィオナは何が欲しいと言うのだろうな。「一夜を共にしてくださいまし」「えええっ!?」 いや、貴方は清純派ヒロインですよね? しかも皇女殿下でしたよね? なぜにそのような破廉恥な台詞を口にするのですか?「フィオナ、俺たちは元婚約者だぞ? しかも非常に短い期間の……」「そんなこと関係ございません。わたくしはリィナが羨ましいのです。よき友人であり、ライバル。わたくしも操を捧げることに決めたのですわ」 決めたのですわじゃねぇよ。俺の意見も取り入れろ。絶対に間違ってるから。「リィナとフィオナでは状況が異なる。急がなきゃいけない理由はないはずだ」「急ぐ理由があれば問題ないのですね?」 揚げ足を取るなっての。それに急ぐ理由なんかフィオナにはないと思う。「わたくしには婚約破棄という経歴がございますの。気にされる殿方も多いと聞きます。完全に嫁ぎ遅れが確定しているのですわ。どなたか存じ上げませんが、破棄されてしまったのです」「いや、一方的に破棄されたのは俺だぞ? 原因は俺の要求だけどさ……」「原因ですよね?」 ちくしょう。見た目に反して口が達者だ。 確かに俺の責任だが、フィオナの見た目で嫁ぎ遅れるなんてあり得ないって。「その顔と胸なら引く手数多だろうが? 誰だって気に入るよ」 俺は正直な感想を口にしただけだ。しかも皮肉的に言ったつもり。けれども、俺は予期せぬ返答をもらっている。自らの台詞で身動きできなくなるくらいに。「
私とクラリスは武道会館へと来ています。 本来なら、ここで剣術の稽古をするはずだったのですが、授業ではまだ一度も使用していません。 今は二人してコーネル殿下の到着を待っているところです。「リィナ、ご機嫌ですね? 良いことでもありました?」 あれ? 顔に出てた? フィオナ殿下とルカ様争奪戦があったところでしたが、私は今日も夜に会う約束をしていたのです。自然と顔がほころんでいたのかもしれません。「クラリス、恋は盲目なのよ……」 ニヘラ顔は情けないですけど、仕方ありません。だって昨晩は激しすぎたんだもの。 婆や曰く、お預けされた男性は魔物よりも凶暴になる。まさに教えられたままだったのです。あんなにも激しく求められるだなんて、女冥利に尽きるってものよ。「リィナは、やはりルカ殿下と?」「ええ、まあ。騎士であり、愛人なのよ。実は今日も求められちゃって困るわぁ。えへへへ……」 自慢げに語っちゃいます。 ルカ様はどこに出しても恥ずかしくない男性だもの。愛人だとしても胸を張れるってものよ。「いいなぁ。正真正銘の王子様ですし、とにかく凛々しいお方ですもの……」「そうなの! 横顔が凛々しくて大好き!」「そりゃあ、ニヤけちゃいますよねぇ?」「あははは! そうなの! あはははは!」 ヤバいわ。 別に決まった人がいる事実を自慢したいわけじゃなかったのに、滅茶苦茶に優越感がある。私って嫌な女だと思われてないかな?「だけど、フィオナ殿下とも噂になってるよね?」 ここで胸に鉄柱が刺さったかのような気分になる。 うう、それよそれ。思いのほかフィオナ殿下が本気なのよ。キスまでしたっていうし、気を付けておかなきゃ愛人筆頭の座を奪われてしまいそう。「ルカ様はモテるから仕方ないのだけど、やはり独占したいわ……」「あれだけの美貌と強さを兼ね備えてますし、何より大国の王子様。モテないわけがないですよねぇ」「不安になること言わないでよ? 私で良いのかと悩んだこともあるんだし」 はっきり言って全人類の中でルカ様は最高の男性です。 そんな彼が私だけを愛してくれるなんて都合の良い話だと思います。恐らく私の幸運がそうさせているのだと感じますが、いつまで独り占めできるのか分かりません。「結婚はしないのです?」 再び胸を鉄柱が貫く。 それは聞かないで欲しかっ
本日の剣術科は朝から実技です。昨日は体力強化に終始した訓練でしたけれど、今日は少しくらい剣を振る機会があるのかしらね?「今からウォーミングアップだ。一時間休みなしで走っておけ」 ダラス教官の話に不満の声が上がります。 昨日と比べると一時間という制限があるのは有り難いですけれど、ウォーミングアップに一時間とか長すぎない?「ダラス教官、本日は剣術を習ったりできるのでしょうか?」 全体の士気を考えると、聞かないわけにはなりません。私は代表して質問することにしました。「剣? 必要ない。貴様たちは前線で戦い続ける体力が不足している。当分の間、剣を抜くことはない」 ま、そんな気がしたけどね。 正直に体力云々よりレベルを上げた方が良いのですけれど、魔物を倒すにはそれなりの下地が必要だったりします。「承知しました」 実をいうと私たちはレベルの測定すらしていない。 その原因は振り分け試験の攻撃威力だと考えます。体力強化メインとなっているのは剣士として未熟だと判断されたせいでしょう。 剣術科はその名の印象とは異なり、剣術に関するジョブを持つ者は少なく、攻撃魔法や支援スキルが使えないという理由だけで集められた者たちだったのです。「リィナ様、今日も頑張りましょう」 声をかけてくれたのは私の他に一人しかいない女性剣士です。彼女のジョブは剣豪らしく、私に次いで威力を示した実力者の一人でした。「クラリス、敬称は必要ないわ。同じ剣術科の候補生よ」「と言われましても……」 クラリスはイステリア皇国の伯爵令嬢です。 同盟国でもあるし、私を尊重してくれているのですが、私としては剣豪を授かったクラリスに敬意を覚えずにはいられない。 恐らくは武運の女神ネルヴァ様がお与えになったのかと思います。一応は一般ジョブでありましたけど、確実に上級ジョブであるのですから。「私が気になるのよ。恐らく一年間、ずっとペアなのよ? 距離が遠いままなら、連携も取りづらくなってしまうわ」 私が強要するようにい
翌日、俺は気分爽快に目覚めていた。 その理由は判然としている。この晴れやかさは、やはり昨晩スッキリとした影響なのだろう。「リィナ様々だな……」 背伸びをしてから着替えを始める。今日は午前中が実技であり、午後は講義が予定されていた。「ルカ君、おはよう。何だかご機嫌だね?」 コーネルが起きてきた。どうやら俺のスッキリ具合が伝わってしまったらしい。「まあな。コーネルは眠そうだな?」「あまり寝付けなくてね。色々と心配事が多くてさ……」 そういや、コーネルが死ねば、俺は命を狙われる可能性があった。 フィン次第ではあったものの、できればコーネルには長生きしてもらわなきゃいけない。「コーネル、お前のジョブは何だ?」 俺はここでコーネルのジョブについて聞く。 自身が使徒であることも知らぬ彼はろくなジョブを授かっていないはずだ。「え? 僕のジョブは剣士だけど?」 その返答には思わず溜め息が漏れてしまう。 本当に悠久の女神ニルス様は何を考えているのか。 俺のことは死んだ後で好きにしたら良いというのに、彼女は良からぬ動きばかりしている。使命を与えるべき使徒に汎用ジョブしか与えないだなんて。「そうか。まあ、剣術科なのも頷けるな」 仮にも皇族だからな。剣士であったのは最低限だろう。農夫やら漁師だったとしたら、目も当てられないところだった。「ねぇ、ルカ君。君って勇者みたいだけど、僕に剣術を教えてくれないかな?」 ここで妙な話になる。俺が魔法科であるのはコーネルも知っていたというのに。「俺は魔法科だぞ? それに剣術はほぼ我流の力任せだからな……」 幼い頃から魔物狩りに参加していたけれど、まともな先生に習った経験がない。改変されたシリウスの記憶にある剣術稽古くらいなものだ。「僕は強くなりたいんだ。恥ずかしい話だけど、今さらに愛国心が芽生えてきてしまった」 帝都が陥落したことについて、コーネルは責任を感じているのかもしれない。自分が優秀な剣士であったとして、軍隊に対抗するなんて無意味だというのに。「それならリィナに習ってみろよ? 彼女はちゃんとした先生に剣術を習っているし、腕前も大会で優勝するほどだ。俺よりきっと力になれるよ」 俺だってコーネルが強くなって欲しい。彼が長生きしてくれたのなら、命を狙われる危険性が減るのだからな。「いや、
シエラとの話し合いを終えた俺は夕飯を取っていた。 路上生活の記憶からか、何を食べても美味い。王子としては意地汚いかもしれないが、いつも完食してしまう。「そういや、リィナに呼び出されていたんだっけ……」 本日はまだ用事があった。それもあまり良くない話。フィオナとの口づけがリィナにバレてしまったみたいなんだ。「遅かれ早かれだな……」 弁明とか憂鬱な気分になってしまうが、身から出た錆である。 フィオナに押し切られた格好であったけれど、俺は彼女の気持ちに応えてしまったんだ。 リィナとの待ち合わせは魔道殿の裏手だった。幸いにも月明かりがあったおかげで、迷うことはない。「殿下!」 俺は声をかけられていた。どうやらリィナは既に到着していたらしい。 駆け寄ってくる彼女は昼間の鍛錬疲れもまるで残っていない感じだ。「ああ、リィナ。えっと、その……」 俺が目を泳がせていると、先にリィナが口を開く。「殿下、聞きたいことがあるのです」 やっぱり。誰にも見られていないはずだが、もしかするとロッカールームに隠れていたことは全員が気付いていたのかもしれない。 ところが、リィナは俺の予想と異なる話を始める。「また私の知らない誰かになるおつもりですか?」 んん? 知らない誰かになるって? 俺は記憶を掘り返していた。 このところ色々なことがあったので整理する必要がある。 リィナが気にするようなことで、俺が誰かになるって話は……?「ミリアに聞いたのか?」 恐らくミリアに加護をくれと頼んだ話だろう。 リィナは俺がミリアになってしまうのではないかと危惧しているはずだ。「ええ、まあ。相談を受けました。けれど、私は反対です。殿下は今のままでよろしいかと……」 ミリアの加護を手に入れるのはリィナのため。そして俺のためでもある。 魔力を循環させる魔管を錬成できたのなら、魔力循環不全は治癒する可能性があったんだ。
「二年後までリィナは生きていないじゃないか……?」 アークライトの存在は俺が十七歳でディヴィニタス・アルマを唱える世界線に戻そうとするらしい。その結果はリィナを見殺しにする世界線だった。「分かったでしょ? アレは残しておくと、ろくな影響を与えない。そもそも私たちは祝福の儀まで世界の改変なんて考えもしていません。アークライトが及ぼす悪影響など計算していませんでしたの」 まあ、そうだろうな。 祝福の儀で俺は死を予告されていた。どうしてかシエラが魅入ってしまい、全てが瓦解したのだ。女神たちが世界の安寧を願って創り上げたその世界は、今や前世界線である。「今のままではルカは雌ネコちゃんを救えなくなるわ。ルカは十七歳まで生きてしまうからね。もし仮に雌ネコちゃんが死の淵にあったとして、貴方はその場にいない。運命の導きによって、ルカはあの娘の死に際に立ち会えなくなるでしょう」「いや、アークライトはそのうちに死ぬだろう? もう帝都が陥落しているんだし、あいつは前線基地にいる」「アレは輪廻する魂ではないと言ったでしょう? 女神が創り上げた偽物の運命は世界の改変を最小限しか受けておりませんの。アレは十八歳にて戦死と予め定められております。それが現在から数えて何年後なのか分かるでしょう?」 現状のアークライトは十六歳だ。つまり、あと二年も死なないらしい。 つまるところ、俺もまた二年生きることになり、リィナの死に目に立ち会えないという。 改変の影響でリィナは寿命が短くなったというのに、アークライトだけは定められた運命を全うするとか納得できない。「嘘だろ? あと二年もアークライトは生きる運命なのか?」「第一王子ですわよ? 戦場から逃げ出すなんて簡単な事ですの。運命の日が来るまでアレは生き続けるでしょう」 何てことだ。それじゃあ遅すぎる。 アークライトが生きている限り、俺が司令官になるのは難しい。また、そうなると魔国の侵略に対抗できなくなってしまう。「どうやって殺す……?」 俺は意見を変えていた。 勝手に失われないのであれば、シエラの考えに乗るだけだ。 リィナを救えなくなるというのなら。加えて世界が滅びるというのならば。「フィンを利用しましょう」 ここで再びフィンの名が告げられている。どうあっても、彼の力が必要みたいだな。「【過去と未来







